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IL FANTASMA DELL'OPERA
also known as Release Year
オペラ座の怪人 (Japan - video title)
El fantasma de la ópera (Argentina - video title)
El fantasma de la ópera (Spain)
El fantasma de la ópera (Venezuela)
Dario Argento's The Phantom of the Opera (UK - video title)
Le fantôme de l'opéra (France)
O fantasma da Ópera (Portugal)
Oopperan kummitus (Finland)
Phantom der Oper (Germany)
Phantom of the Opera (USA - video box title)
The Phantom of the Opera (USA)
Um Vulto na Escuridão (Brazil - video title)
Italy: November 20, 1998
France: February 3, 1999
Germany: February 25, 1999
Finland: June 4, 1999 (Night Visions Film Festival)
Finland: July 30, 1999
Singapore: August 26, 1999
USA: November 9, 1999 (video premiere)
Sweden: November 18, 1999 (Stockholm International Film Festival)
Portugal: November 19, 1999
UK: April 1, 2000 (Dead by Dawn Edinburgh Horror Film Festival)
Kuwait: February 14, 2001
Iceland: June 26, 2001 (video premiere)
Spain: June 19, 2002 (video premiere)
Country Runtime
Italy
Hungary
99 min.
106 min. (director's cut)
Introduction
1877年、パリ・オペラ座。劇場関係者が相次いで失踪する中、スターを夢見る歌手クリスティーヌの前にテレパシーを使う黒装束の謎の人物が出現する。実はその謎の人物こそが劇場関係者を葬り去っていた「怪人」だったが、野獣の本能と芸術性を併せ持つ怪人は、類稀なき美声を持つクリスティーヌに魅了される中、彼女を運命の相手と見定めていたのだった。一方のクリスティーヌも甘いマスクと至高の音楽性を併せ持つ怪人に全てを与えてしまうが、やがて怪人の恐るべき正体が露呈される中、劇場は未曾有の恐怖に包まれようとしていたーー
Various Notes
パリのオペラ座に巣食う怪人と若き歌姫の悲恋を描くロマンティックホラー。原作はガストン・ルルーの著作"LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)"。脚色は「歓びの毒牙 (1970)」「サスペリアPART2 (1975)」「サスペリア (1977)」「シャドー (1982)」「オペラ座/血の喝采 (1987)」「スタンダール・シンドローム (1996)」のダリオ・アルジェントと「吸血鬼 (1967)」「ある女の存在証明 (1982)」「薔薇の名前 (1986)」「赤い航路 (1992)」のジェラール・ブラシュアルジェントは演出も兼任。原作では真骨頂ともいえる怪人のペーソスも割愛する中、怪人とヒロインの悲恋モノに纏め上げる脚色はかなりの異色度。残虐描写満載の映像もアルジェントならでは。モリコーネが手掛けるテーマ曲"Sighs and Sighs"は、一連の脚色版でも屈指の名曲。と云うより、名曲が連なるモリコーネのライブラリーでも際立つ1曲。エンドロールでは、グアリニの名前もクレジットされる。

以下、完全ネタバレ。未鑑賞の方はご留意下さい。
各種作品の参照: クリスティーヌとラウル
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

ヒロインのクリスティーヌは、パリ・オペラ座のスウェーデン人歌手。スカンジナヴィア随一とも謡われたヴァイオリン弾きの父親と幼くして死別する中、養母に育てられたと云うバックボーン。相手役のラウルは名家の子爵。幼年期の幾度かの時期に面識があった2人は、やがて恋愛を意識するようになるが、決定的な再会を向かえる直前の時期にクリスティーヌが「怪人」とある種の誓約をしていた為に、2人が本音をぶつけ合えるようになるまでには紆余曲折を経る事に。ちなみその辺りのダイアローグも活字ではかなり長い。と云うより、当代ならではの敷居の高い言い回しが連発されるために物凄いヴォリューム感。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

サイレントと云う特質上、クリスティーヌの生い立ちや背景にも触れる事のないスクリプトだが、恋愛相手として登場する子爵のラウルとの関係は原作にも同じ。ただ、若さ全開で未熟さも覗かせる原作のラウルとここでの中年紳士のようなラウルの印象にはかなりのギャップも。モノクロ映像に即したメイクの影響も色濃い中、美女とイケメンと云うよりハイミスと中年紳士のような感じ。怪人が怪人たる壮絶な最期を遂げるクライマックスも用意される中、ここでのクリスティーヌの怪人に対するスタンスも原作とは終始異なる。原作では最後の最後で怪人に対して真心で接するクリスティーヌだが、彼女にとってのここでの怪人は最後まで「怪人」。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

オペラ座でスターを夢見るキャラ色は原作に同じクリスティーヌだが、ここで名前は英語読みでのクリスティーンラウルの素性はパリ市警のやり手の警部。アナトールと云うオペラ座のバリトン歌手も登場する中、ここでの2人の関係はアナトールも交えての三角関係。「めぞん一刻」に例えれば、響子さん+五代+三鷹のような構図。恋敵同士が火花を散らす描写ではウィットも全開。ついては原作とも全く異なるキャラ設定だが、そもそもこの脚色は、キャラクターやパート的なモチーフも参照程度。総じての印象も原作とは全く異なる。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

ここでのヒロインは、オペラ座でスターを目指す米国生まれのイタリア人マリア・ジャネリラウルに該当するヒロインの相手役は、英国人の演出家マイケル・ハートネル。ついては、原作とは異なる2人のバックボーンだが、やや勝気で野心的なマリアのキャラ色も一連の脚色版とは異なる個性の一つ。ついては、マイケルとの恋愛模様も一味違う。マリアの背後に謎の人物(怪人)の存在が見え隠れするようになる中、トルコ風呂で怪人に脅迫されるマイケルだが、恐怖と嫉妬に駆られるマイケルマリアを主役の座から引きずり下ろす辺りはかなり微妙。そもそもの話、怪人とヒロインの屈折した関係に焦点を絞る原作では、然して重要でもないラウル(ここではマイケル)の顛末だが、それにしても、ヒロインマイケルの愛憎の変遷を性急なテンポで描くここでの脚色は個性的な筋立て。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

NY(現代)とロンドン(19世紀)の時空の扉を行き来する中、ここでのクリスティーヌは米国人&英国人として登場。その名前もクリスティーヌ・デュボアではなくクリスティーヌ・デイ。オペラ座でスター歌手を夢見る中、カルロッタのアクシデントで飛躍するキッカケを掴む辺りまでは原作に同じだが、カルロッタを後押しする劇場経営者や悪徳批評家の画策で出世を阻まれる展開は、ビアンカローリ(原作ではカルロッタ)の画策を描く43年度版にも近い。一方、クリスティーヌのここでの相手役は、劇場経営者の1人リチャード。名前の通り、ラウルを踏襲するキャラには違いのない恋人役のリチャードだが、やがて迎える悲惨極まりのない末路は原作や他の脚色とは大きく異なる。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

原作にも同じ2人の名前だが、ここでのラウルは子爵ではなく男爵。若さゆえの未熟さと云うより、そもそもが内向的な性格。クリスティーヌとの関係も片思いと云う設定。幼少時の出会いを描く原作のくだりも描かれない。「兄のような存在になって欲しい」と云うヒロインの返答に衝撃を受ける中、周囲にも当り散らす未熟者のラウルだが、一方のクリスティーヌは、フェロモンを撒き散らす成熟した女性キャラ。これは、親父のダリオが、娘のイメージそのままで筆を走らせたような脚色。その異色度は一連の脚色の中でもダントツ。テレパシーで怪人と交信する中、ベッドシーンを重ねる描写にも絶句させられるが、そもそもの話、コンプレックスを持つ怪人とヒロインの紆余曲折を描くのも実はかなりの難業。怪人の容姿を忌み嫌うヒロインの姿も実に微妙だったりするが、その辺りをサクッと割愛するここでの脚色は意図も明快。クライマックスの筋立てには大いに疑問も残るが、脚色の骨子そのものは下手なペーソスに傾く事なく非常に分かり易い。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

2人共に原作に同じ名前で登場。素性や幼少時の馴れ初めも原作にほぼ同じ。劇場のパトロンとして登場するラウルの素性は原作ともやや異なるが、基本的には原作のエッセンスもほぼ忠実に踏襲。若さゆえに未熟さを覗かせるラウルのキャラ色も、一連の作品の中では最も原作に近い。ついては、エミー・ロッサムパトリック・ウィルソンと云う若さ全開のキャスティングも適材適所の印象だが、パトリック・ウィルソンのつるっとした能面のような顔立ちはやや微妙。というよりこれは、怪人のそれより仮面的な感じ。超イケメン+美声の好キャストには違いないのだが。一方、怪人とクリスティーヌが2ショットになる中、普段は清純派のヒロインが女吸血鬼のような妖艶なメイクになる辺りも絶大なインパクト。
各種作品の参照: 周辺キャラクター
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

ダロガと呼ばれる謎のペルシア人(実はペルシアの元警察長官)、ラウルの親子ほどの年齢差(41歳)の兄フィリップ伯爵、劇場の新監督モンシャルマンリシャール、劇場案内係のジリ夫人、クリスティーヌを敵視する歌姫カルロッタなどが重要なサブキャラ。また、創作モノでありながら、「歴史記者」として筆を執る作者のガストン・ルルー自身もここでは重要なキャラ。ダロガと呼ばれるペルシア人と面談する中、その取材に基く文章やダロガ自身の手記などで構成される内容は、ルルーの主観を織り交ぜる見聞録のようなコントラストで貫かれる。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

ペルシア人のダロガに該当するキャラとして秘密警察のレドーを登場させるスクリプトだが、これはやや浮いた印象。と云うのも、やがて迎えるクライマックスでは何ら関与しない脚色のため。怪人のアジトまでラウルを導くレドーの役割は原作にも同じ重要なパートだが、原作のような怪人とダロガの旧知の因縁も描かれる事なく、結果的にはやられっぱなしの内容を考慮すれば、ラウル一人でクリスティーヌを救出に出向くような脚色の方が格段に良かったはず。と云うより、作者の取材形式で綴る原作では必要不可欠だったダロガ(ここではレドー)と云うキャラだが、ここでは全く機能せず。この辺りについては、ダロガと云うキャラを割愛する04年度版などの脚色にも手放しで頷ける。原作では事故死とされるラウルの兄フィリップについては、怪人に殺害されると云う脚色。新監督の2人や歌姫カルロッタもスポット的に登場するが、ジリ夫人は登場しない。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

クリスティーヌ(ダイアローグの発音はクリスティーン)やラウルの苗字も原作とは異なる脚色だが、クリスティーヌを目の敵にする歌手ビアンカローリ(原作ではカルロッタ)や劇場関係者たちの名前も全て異なる。と云うより、クリスティーヌラウルに肩を並べる主要キャラのバリトン歌手アナトールを始め、全てのサブキャラが原作には登場しないオリジナル。ちなみに、クリスティーヌの敵役となるビアンカローリが怪人に殺害される辺りも原作とは大きく異なる。オリジナルといえば、この43年度脚色版では、何とあのフランツ・リスト(1811-1886)やプレイエル(1757-1831)も登場。マエストロと呼ばれる中年世代のリストと年老いたプレイエルを同居させるのも年号に照らし合わせれば矛盾が生じるが、何れにせよ、あのプレイエルを犠牲者として描く中、怪人をおびき寄せるためにリストにプレイさせると云う脚色はかなり大胆。と云うより、超ファンタスティック。と云うか、この辺りのワクワク感がこの脚色版での最大の醍醐味なのかも。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

スターを夢見るヒロインはもとより、その相手役と敵役の歌手、劇場オーナーや担当警部など、原作にも同じ登場キャラの肩書きだが、原作とは全く異なるキャラ色だったのが劇場オーナーのフニャーディ男爵。そもそもがこのスクリプトは、怪人の妻エレーナが非業の死を遂げる中、その復讐劇に的を絞る大胆な脚色。そんな復讐劇での仇役となる男爵は、一連の脚色版でも類を見ない重要な脇役キャラ。怪人の僕として登場するラホスと云う人物については、原作はもとより一連の脚色版でも描かれないオリジナルキャラ。オペラ座地下の怪人のアジトを舞台にするクライマックスも描かれない中、ポール・ブルック演じる担当警部も何気にアッサリとした印象だが、これも実は原作の踏襲。89年度版のように捜査当局の武勇伝を描く脚色などもあるが、この辺りも元々はダロガ(ペルシア人)の役割で原作での警察の関与はアッサリとしたもの。敵役の歌姫マダム・ビアンキ(原作ではカルロッタ)との確執についても原作のままだが、ヒロインと敵役が面と向かって火花を散らす描写はこの脚色版ならでは。ちなみに、マダム・ビアンキの喉を潤す加湿スプレーに怪人が細工を施す描写は04年度版にも似ているが、宝石箱にネズミを忍ばせる描写はこの脚色版だけ。04年度版と云えば、その冒頭シークエンスでオークショナーを演じるのはこちらでは警部を演じていたポール・ブルック
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

ヒロインのクリスティーヌと劇場共同経営者の1人リチャードが恋仲と云う設定の下、もう一方の劇場共同経営者マーティンクリスティーヌの親友メグ(原作ではジリ夫人の娘「小さなメグ」)、事件を捜査するホーキンス警部などが主な周辺キャラ。何れの人物も原作を踏襲するキャラには違いないが、ヒロインの相手役と劇場オーナーを融合するリチャードと云うキャラや、ペルシア人のダロガと担当刑事を融合させたようなホーキンスと云うキャラなど、ここでは複数の原作キャラの役柄を一つのキャラに纏め上げるような形に。ちなみに、道具係のジョゼフを最初の犠牲者として描く辺りは原作にも同じだが、皮を剥がれてクローゼットに押し込められると云うスーパー残酷描写はこの脚色版ならでは。そのジョゼフの姿を見てショック状態に陥るカルロッタが、やがては怪人に斬首される展開も原作とは大きく異なるが、ちなみにカルロッタが怪人の手に掛かる展開は43年度版の脚色にも同じ。あのビル・ナイ演じる劇場オーナーの1人マーティンカルロッタに肩入れする中、一方のリチャードがヒロインに肩入れする辺りは、この脚色版ならではの面白いコントラストだが、面白いと云えば、やはり転生をモチーフにするスクリプトのオチ。親友のメグホーキンス警部も現代に転生する中、NYの売れっ子プロデューサーとして転生していた怪人とヒロインが決着を付ける脚色は実に歯切れがイイ。と云うか、ここでのテーマは、魂を悪魔に売り渡した怪人との決着。怪人のペーソスもまずまずのスタンスで描き切る中、情け容赦なくそのテーマを完遂するエンディングは実に分かり易い。明確な意図の脚色が本懐を遂げたような感じ。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

ペアの劇場オーナー、ヒロインの敵役カルロッタ、ラウルの兄ジェローム(原作ではフィリップ)、ジリ夫人など原作でもお馴染みのキャラが名を連ねるクレジットだが、何れものキャラも原作とは異なるイメージ。カルロッタについては、恰幅の良い容姿を除けば原作にもほぼ同じ性格だが、劇場を乗っ取るオーナー2人や俗物のラウルの兄など、その性格ばかりか登場場面もスポットに限定される。「ハウルの動く城」に登場する老婆姿のソフィーのようなジリ夫人に至れば、その登場場面も僅かワンカットだったりするが、ちなみにジリ夫人に打って変わるヒロインの待女を筆頭に、怪人を付け狙うネズミ退治屋や若い使用人カップル、劇場の幼い生徒に付きまとうロリコンキャラなど、脚色ならではのオリジナルキャラも多数登場。これも要は、怪人の脅威を描く残酷描写にもかなりのページを費やすスクリプトだったため。それにしても、原作とはあまりに違うキャラ描写も微妙だったりするが、これも当代の浮世を赤裸々に捉えるリアルな描写だったと云えるのかも。意外なキャラといえば、43年度版ではリストプレイエルが登場していたが、何とここではあの印象派の画家ドガが登場。事件には何ら関係のないドガだが、1860年代後半以降に「踊り子」をテーマに数多くの作品を残すキャリアを踏まえれば、ここでのドガの登場も史実を踏まえる内容。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

劇場の新たな支配人となる2人など一部のキャラの名前を除けば、基本的には原作にもほぼ同じ顔ぶれ。一方、怪人を追跡するダロガ(ペルシアの元警察署長)やラウル(伯爵)など、原作では重要なカードもサクッと割愛する脚色だが、実はこの辺りがこの04年度脚色版の真骨頂。怪人の過去を知るダロガのパートを割愛するのも通常の脚色であれば大事件だが、そもそもの話、怪人クリスティーヌラウルの3者によるクライマックスには、実はあのダロガもお邪魔虫だったキャラ。ダロガの証言を基にする原作では裏主役とでも呼ぶべきダロガは蔑ろにも出来るはずもなかった訳だが、怪人とのパイプ役をジリ夫人に置き換えるこの脚色ではダロガのパートの割愛もある種の必然。と云うより、怪人クリスティーヌラウルの関係も一時的には三角関係の様相を呈するドラマティックなクライマックスのためには、ダロガジリ夫人を一人のキャラに纏め上げる脚色も必然だったと云う事。一方、原作では波乱万丈の怪人の過去も、ここではジリ夫人が知り得る範囲での小ぢんまりとしたものにもなってはいるが、これも致し方のない所。怪人クリスティーヌの屈折する愛憎関係に的を絞るプロットではこれ以上の脚色も望めない。と云うより、映像での再現を試みるさまざまな原作の解釈も、04年にしてようやく完成されたような感じ。
各種作品の参照: パリ/オペラ座の描写など
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

活字で伝達される劇場周辺の描写は当たり前のように丁寧な印象だが、本編のミステリ劇を置き去りにするようなしつこさは無し。主要キャラが歩を進める先々での描写には字数も投じられているが、背景や周辺のデコレーション的な描写は何気にアッサリとしていて読み易い。想いのままに筆を走らせるかのようなダイアローグも抜群の臨場感だが、簡潔な言い回しも極めて少ない会話の数々はヴォリューム感もスゴイ。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

ディオラマの断面図を見るかのような地下通路の描写がかなり楽しい。原作でもお馴染みの仮面舞踏会のシークエンスなどは、一連の作品群でもピカイチの臨場感。スクリプトでは「どんちゃん騒ぎ」と表現されるこの場面、原作でもパーティーの終盤では大騒ぎになる事が記されているが、とにかく画面にひしめく頭数から半端じゃない。にぎわう様子をロングで捉えるショットも物凄い迫力。また、原作でもお馴染みの怪人が盗む名馬も登場。クリスティーヌが拉致される中、馬とボートを乗り継いで地下の隠れ家に辿り着く描写は、淡白な映像ながらも一連の作品群では最も原作に忠実。細い竹筒で呼吸しながら地下水路に潜む怪人の様子を捉える描写も原作の踏襲。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

25年度版のセットをそのまま流用したと云うステージ等のセットだが、オペラ座についての描写らしい描写はスクリプトで語られず。怪人のアジトについても、火傷を負った怪人が一時的に潜伏すると云う設定の下、古い備品の投げ置かれた物置部屋のような一角として登場。ついては、セミグランドが放置されている事にも違和感はないが、怪人エリックが自身でメンテしたのか調律はバッチリ。ちなみに迎えるクライマックスでは、そのピアノでのパフォーマンスが怪人の命取りになると云う流れ。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

ここでの舞台は、20世紀初頭のブダペスト。復讐鬼と化した怪人がオペラ座地下を根城にする設定は一連の脚色にも同じだが、パイプオルガンや備品を劇場から盗んだ事を明らかにするスクリプトはこの作品だけ。20世紀初頭のブダペストを舞台にする中、ロマン溢れるパリの地下水路には程遠い下水道を道筋にする辺りは、英国を舞台にする89年度版にも同じ。地下に住むホームレスが大挙登場するのもこの脚色版ならでは。ヒロインの行方を追うマイケル(原作ではラウル)が、行政との裏交渉で怪人のアジトを突き止める描写もこの脚色版だけ。と云うか、先の備品の盗難を明らかにするくだりはもとより、怪人がオペラ座の見取り図に着目する描写など、注釈的なディテールへのこだわりがこの脚色版の大きな特徴。特徴と云えば、仮面舞踏会のシークエンスも面白い。と云うか、ヒロインの方から怪人とのコンタクトを申し出る中、フツーは招かれざるキャラの怪人の姿をヒロインの方から捜し求める設定は、脚色的にはなかなか新鮮。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

ここでの舞台は、NY(現代)とロンドン(19世紀)。「ファウスト」が上演される序盤だけを見れば、パリのオペラ座とも大差ないようにも思えるロンドンの劇場だが、中腰を余儀なくされる下水道の描写は、パリの地下水路のそれとは全くの別モノ。オルガンを備える怪人の隠れ家は、43年度版を除く他の脚色版にも同じようなイメージだが、豊富なショットでさまざまなスペースを捉える仮面舞踏会のシークエンスは、音楽PVに例えれば、そのバックステージを捉えるメイキング映像のような感じ。怪人とカルロッタが接近遭遇するシーンもこの脚色版ならではの見所の一つ。仮面舞踏会と云えば、あまりに不似合いな仮面姿のクリスティーヌには思わず爆笑。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

ブダペストのオペラハウスで撮影された劇場内のシークエンスも当たり前のように華やかだが、ここでの売りは、惨劇を描くオペラ座地下空間での描写。カルスト洞窟のような空間が登場するのは、一連の作品でも本作だけ。仮面舞踏会や墓場の段落も割愛される中、お馴染みの屋上シーンも終盤でようやく登場するスクリプトだが、これも原作のモチーフを後半に集約する流れの脚色だったため。ちなみに怪人の脅威を描く序盤から中盤にかけては、何れの脚色作品とも異なるアルジェントならではの映像を網羅。ネズミ退治屋の2人がネズミ退治マシーンを走らせる地下空間での描写はご愛嬌だが、財宝目当てのカップルが串刺し&舌を食い千切られるシーンには只々絶句。禁断の空間に足を踏み入れようとした工事作業員3人が惨殺される冒頭も物凄いが、そんな蛮行にも及ぶようには見えないジュリアン・サンズの怪人役と云うのもやや微妙。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

的を得た脚色も然る事ながら、セット装飾も随一のゴージャス度。馬とボートを乗り継ぐ描写も登場する中、何から何までもが超豪華な映像だが、ミュージカルと云う特質上、原作のエッセンスを寸鉄で表現する25年度版のようなリアリズムとはまた別モノの印象。仮面舞踏会の描写はもとより、馬に乗せられたヒロインがらせん状の通路を下る辺りの描写など、25年度版の方がより原作に忠実な印象だが、これも要は比較出来るようなものではなかったと云う事。それにしても、クリスティーヌラウルの屋上での会話を怪人が立ち聞きするシーンでの当たり前のようなCG効果などを目の当たりにすれば、25年度版の物凄さも再認識させられる。モノクロでサイレントだった25年度版だが、怪人の憎悪と怨念がにじみ出る映像のインパクトは、恨み節を並べ立てるこの04年度版をも凌駕していた。セット装飾といえば、怪人が楽器らしい楽器をプレイする映像が登場しないのもこの04年度版の大きな特徴。鍵盤楽器の前に佇むカットは登場するものの、パイプやアコピをかき鳴らす他作品のような場面は一切登場しない。
各種作品の参照: 怪人/ファントム
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

ファーストネームは自称「エリック」。出生地はルーアン付近の小さな町。親は石造請負人。特徴的な顔面の造作が原因で両親に忌み嫌われていた中、家を飛び出してサーカス一座に囲われる。「生きる屍」の見世物として辛酸をなめていた一方、奇術や腹話術、芸人としてのスキルを完成させたのも欧州を渡り歩いていたジプシー時代のこの時期。超一流の軽業やロープ技などにも長けていたエリックは、西アジアの局地紛争などで暗殺任務にも関与するが、やがてペルシア王との出会いを経て大きな転機を迎える事に。建築分野でも類稀ない才能を発揮したエリックは、王の身の安全を100%保障する城を設計するが、その設計者たるエリックの存在そのものを憂慮する王によって処刑の対象にされる中、ペルシアの警察長官によって助けられる。ちなみにこのダロガと呼ばれる警察長官こそが、後にエリックを追跡する謎のペルシア人。浮世での平凡な人生にも憧れていたエリックは、やがてパリのオペラ座の設計にも関与するが、そんな最中に思い付いたのが、オペラ座地下の迷宮の一角を根城にすると云うアイディア。やがて5番浅敷(5番ボックス)を指定席にさせる中、恐怖で支配する劇場から受給される身分も確立する「怪人」エリックだが、そんな最中に劇場で見初めたのが才色兼備のクリスティーヌ。やがて「音楽の天使」を装ってクリスティーヌに接近する中、3ヶ月が経過する頃に恋敵ラウルとの因縁が勃発する。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

ここでの怪人は、とある虐殺事件の最中に誕生する中、独学で奇術や音楽をマスターした人物。流罪先の病院施設を脱走したと云う設定。ついては、原作のバックボーンとはかなり異なる脚色だが、一方、ロン・チェイニー演じる素顔の怪人の方もかなり個性的。仮面をつけてクリスティーヌの前に現れた瞬間から怪しさ満開の怪人だが、眼球部分をくりぬいたフルフェイスのマスクなどは、怪人オヨヨの変態度をも凌駕。と云うか、フルフェイスと云う脚色は原作とは明らかに別モノ。04年度版のようにパート的なマスクも登場する原作だが、ここではロン・チェイニーに施された顔面全体の特殊メイクが怪人のトレードマーク。巷でのリアクションの通り、ロン・チェイニーの鬼気迫るパフォーマンスには文句の付けようもない事は確かだが、それにしても笑えるのは、モノクロ映像の特質上、見方によってはフツーの中年オヤジにも見える辺り。そんな怪人キャラが、ハイミスのようにも見えるヒロインにとことん忌み嫌われると云うのもかなり哀れ。と云うか、この辺りの微妙なペーソスが一連の作品でも唯一無二の醍醐味の一つ。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

先の通り、ここでの怪人は原作とは全く異なる別キャラクター。端的に云えば、ヒロインのクリスティーヌを影で支える足長おじさんのような存在だが、実はその正体もヒロインと離別していた実の父親。ただ、ここでのスクリプトだけでは、そんな事実も俄かには納得し難い。故郷の歌を共有する事や「私の娘」と云うダイアローグもサクッとは登場するが、問題は、父娘が別離した理由や経緯が全く説明されていない事。娘を一流の声楽家に育て上げるべく音楽学校に送り出した父親がその正体も名乗れずにいた訳だが、学費を捻出するために闇稼業に手を出した父親が涙を呑んで離縁したと云う話ならともかく、ここではオケの一員として10年以上も娘の傍にいたと云うバックボーンである。自身の生活費にも事欠く状況で娘を支援しながら、父親だと名乗り出る事が出来ないのもおかしな話。と云うより、娘のやる気を引き出すためにも名乗るのがフツーではないだろうか。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

怪人の正体は、オペラ座のコンダクターだったサンドール・コルヴィン。怪人になるまでの経緯は、「オペラ座歌手の妻エレーナが主役デビュー」→「野次も飛び交うステージの後、批評家の酷評を苦にエレーナが自殺」→「ステージをぶち壊す総会屋稼業のような人物と批評家に復讐」→「復讐最中でのアクシデントで劇薬を浴びる中、浮浪者のラホスに助けられて地下に潜伏」と云う流れ。実はそんな一連の経緯も、横恋慕するエレーナに突き放された劇場オーナーの好色男爵の差し金だった中、男爵への復讐を虎視眈々と狙うコルヴィンだったが、そんな最中に現れたのが亡き愛妻エレーナに瓜二つの歌手マリア。以下の内容は、そんなヒロインとの屈折する関係と復讐劇をブレンドする大胆な脚色だが、ついては、ヒロインの姿に亡き妻の姿をダブらせる怪人のバックボーンも原作や一連の脚色版とは全くの別モノ。ちなみに怪人の特殊メイクは、あのスタン・ウィンストンのデザイン。顔面と云うより、頭部全体に傷跡を残す容姿は25年度版にも近い。ついては、マクシミリアン・シェルの真骨頂が堪能出来るのも序盤だけ。メイクと云うよりゴムマスクを完全装着したような風貌になる中盤以降では、マスクに隠れる名優の顔を想像するのも微妙な感じ。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

怪人の正体は、悪魔に魂を売り渡したエリック・デスラー。元々は、場末のバーでピアノを弾く売れない作曲家だった人物。類稀なき作曲センスを手に入れる中、その代償として顔面をケロイド状の造作にされたエリックだが、ついては自身でデビューする事も不可能になる中、クリスティーヌに目をつけると云う設定。怪人のバックボーンを「悪魔」と云うモチーフに置き換えるのもやや微妙な印象だが、その実これは、なかんずく整然とした脚色。と云うのも、怪人が怪人たる能力を発揮する場面にも違和感がないため。原作では紆余曲折を経てさまざまなスキルを身に付けるバックボーンが描かれる中、一方のさまざまな脚色版では怪人のスキルの裏打ちが充分に描かれていなかったりもするが、ここでのように悪魔のパワーを得たのであれば話も別。怪人のペーソスや悲恋をテーマにするならこれまた話も別だが、そもそもの話、「悪魔」や「転生」をモチーフにするここでの脚色は、オカルトホラー路線を端から打ち出す平行短調的な変奏的内容。脚色の意図もハッキリしていれば、文句の付けようもない。ついては、一連の残酷描写も然るべきもので、チンピラ3人組を血祭りに上げる描写ではカタルシスも覚える。と云うか、怪人のペーソスについても、実はこれがなかなかのモノ。未完成の協奏曲「ドン・ファン」とヒロインにのめり込む中、「生皮マスク」のメンテにも余念がない怪人だが、よくよく考えてみれば、ここまでの怪人の苦労を描き出す脚色と云うのも一連の作品では唯一。ヒロインを思い描きながらの享楽を提供する娼婦には危害を加えぬどころか惜しみなく大金を払う一方、ヒロインに危害を加える人物には故意や偶発を問わず容赦のない怪人だが、このモンスターペアレンツのような短絡的なエゴイズムも、むやみにシャンデリアを落とすような怪人とは異なり実に分かり易い。なかんずく衝撃的だったと云えば、ヒロインに強引に指輪をはめ込む際の"You love the music, I am the music!"と云う口説き文句。あのロバート・イングランドのインパクトも然る事ながら、このダイアローグの説得力は超弩級。個人的には、勝手に20世紀最高のダイアローグと云う感じ。思い出してもゾクゾクする。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

生後間もなくして川に投げ捨てられる中、やがて流れ着いた下水道でネズミに育てられると云う怪人のバックボーンは、原作および何れの脚色版とも全くの別モノ。ちなみに「エリック」でもお馴染みの怪人の名前だが、ここでは名無し。ネズミの残虐性と人間の理性を併せ持つ中、邪魔者は容赦なく惨殺する一方、少女に襲い掛かるロリコン変態には勧善懲悪の制裁を加える怪人だが、テレパシーで意中の相手と交信できる能力や、フェロモン全開でヒロインを即座に虜にする辺りは他ならぬアニマルのそれ。地下の根城では一連の脚色版でも最も豪華なパイプオルガンを弾き鳴らす怪人だが、そのアカデミックな音楽の素養については謎のまま。と云うか、人間の想像も遥かに超える聴力のアニマル的な能力でオペラ座から聴こえる音楽を独学マスターしていたと云う事なのかも。声楽でも周波数音域の最も高いソプラノ歌手に恋をする辺りも如何にもそれっぽい。それにしても衝撃だったのは、ヒロインをのっけからモノにする手の早さ。怪人とヒロインの相容れぬ関係をテーマにする原作を踏まえれば、18禁一歩手前のベッドシーンと云うのも禁じ手の中の禁じ手のようにも思えるが、怪人の容姿に纏わる倫理的なモチーフを度外視するここではもはや何でもアリ。イケメンの怪人と妖艶なヒロインの濡れ場にも何ら違和感はない。ちなみに巷での作品の低評価と云うのも、この辺りの大胆な脚色や文芸性にも程遠い残虐描写によるものだと思うが、実際には、怪人の容姿に狼狽する原作でのヒロインも、ネズミに身体を這わせる怪人の姿に狼狽するこちらのヒロインもその精神的ダメージはほぼ同じ。原作や同一路線の脚色版の場合、その容姿に纏わるコンプレックスから数々の蛮行に及ぶ怪人から善性を引き出す描写をオチにする訳だが、見た目はイケメンの怪人を擁するこちらの場合は、肉体関係を結んだ運命の相手が実は変質的な殺人鬼だったと云う内容。ついては、倫理性にも訴えかけるレクチャー的な原作には程遠い内容だが、美貌や利益を優先する人間の本質を踏まえれば、実はこちらの方が現実的で遥かに分かり易い。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

ここでの怪人は、サーカス一座で虐待を受けていた少年。座長らしき人物を衝動的に殺害する中、少女時代のジリ夫人の手配でオペラ座に隠れ住むようになる怪人だが、原作を参照すれば判る通り、この一連のくだりも原作のスレンダーな踏襲。ついては、建築/音楽/奇術などの超一流のスキルも全て劇場の敷地内で身に付けたと云うバックボーンにも違和感を覚えるが、先の通り、ジリ夫人をペルシア人のダロガに置き換える設定ではこれもやむを得ない所。ちなみに原作でのジリ夫人と怪人の関係は、夫人の娘のオペラ出演で便宜を図る中、夫人との信頼関係を確立させるというもの。となれば、原作をそのまま活かす選択肢があったようにも思えるが、やはり怪人の生い立ちをスレンダーかつドラマティックに纏めるためには、ここでのシンプルな脚色がベスト。クライマックスの流れについても然り。一方、怪人の容姿については、中年世代の甘いマスクの右半分に火傷痕を残す特徴も43年度版に近い印象だが、その一部だけを覆い隠すハイテクマスクはこの04年度版ならでは。ただ、火傷跡に起因する歪んだ性格の人物を「怪人」と称するそもそもの時点での微妙なモチーフを考慮すれば、イケメン顔と火傷跡を同居させると云うのも微妙な状況に拍車が掛かっていたのかも。実際、クリスティーヌが拉致される序盤では、仮面を剥ぎ取られた怪人の姿にも大騒ぎする必要はないように思えたが、この辺りはエンタメ作品ならではの難しい所。原作では唇も残していないような凄惨な描写だったはずだが、映像付きの脚色となれば、基本イケメン顔の怪人の表情の変化を確認できる方が楽しい事も確か。これは何とも微妙で難しい所。
各種作品の参照: シャンデリア落下事件
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

オペラ座の2人の新監督モンシャルマンリシャールが怪人の忠告を無視して「ファウスト」を上演する中、スター歌手のカルロッタが赤恥をかかされる最中に発生。怪人と劇場のパイプ役だったジリ夫人が新監督の2人に解雇される中、その後任の女性が唯一の犠牲者となる事件だが、ちなみに怪人は後日の証言で事件への関与を否定。シャンデリアの落下は老朽化による然るべき現象だったと明言する怪人だが、ついては、この辺りのくだりもかなりミステリアス。怪人の証言が事実であるならば、ある種の念力が引き起こした事件だったような勝手な想像も膨らむ。ちなみにラウルの兄(フィリップ・ド・シャニー伯爵)の殺害についても怪人は関与を否定。地下水路に足を滑らせての溺死事故だったと怪人は証言している。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

カルロッタがヒロインに返り咲く中、激怒した怪人がステージを台無しにすると云う大筋は原作に同じだが、怪人の怒りを買う他の理由についても描かれぬ中、カルロッタの声に異変が生じる描写も登場しない。と云うよりそもそも、このシャンデリアの落下には原作での怪人は無関係。唯一の報復措置として怪人がシャンデリアを落下させると云う脚色そのものが原作とは別モノだったと云う事。ついては、以降の映像作品もこの25年度版を踏襲していたと云う事になるが、そんな映像版での演出については、この25年度版がピカイチの迫力。構図的には真逆さまに落ちるだけだが、惨状も露に伝わる迫真性は他の追従を許さない。98年のアルジェント版はまた別モノとして。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

「仮面の王子」が上演される終盤で登場。クリスティーヌの拉致を目論むエリックが、騒ぎを起こすためにシャンデリアを糸ノコで落下させると云う流れだが、これもややツライ内容。緊張感をクレッシェンドさせる演出はまずまずだが、そもそもあのドでかいシャンデリアを支える図太い連結部を僅か1枚の糸ノコで切り落とすというアイディアに無理がある。実際にはそれなりの迫力だった事も確かだが、切れるはずもないだろうと高を括らされる状況下ではハラハラ感もない。と云うより、糸ノコの替え刃を懐に忍ばせる怪人の姿を想像させられる時点でアウト。オペラの上演中に緊張感を高めると云うアイディアは理解できるが、ここはシャンデリアを巻き上げる鎖に細工をする25年度版のようなサクッとした演出でも盛り上げる事は可能だったはず。と云うより、シャンデリアを落下させる事も瞬時に可能な状況下、怪人がいつ実行するのかを想像させられた方がよほど怖い。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

詳細は次段落「怪人の最期」に。と云うかここでは、シャンデリア事件がすなわち怪人の最期と云う脚色。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

シャンデリアは落下せず。と云うより、序盤の「ファウスト」を除けばオペラのシーンは2度と登場しないスクリプトだが、強いて言えば、裏方のジョゼフが錘を落下させる際のガラスのスマッシュシーンが似たようなインパクトだったのかも。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

カルロッタが主役を演じる「ロミオとジュリエット」のステージ最中に発生。ちなみに、ステージの直前に怪人がカルロッタに危害を加える描写は原作および一連の脚色とも異なるが、その最も大きな違いは、多数の犠牲者を出す事件の顛末。強いて言えば、25年度版にも近い大惨劇の様相だが、犠牲者の目玉が飛び出す細部に至るまでの残虐な演出はアルジェントならでは。怪人が石造りの柱に斧を振りかざす中、シャンデリアの鎖をつなぐ歯車に衝撃を与えるダイナミックな描写も見応え充分だが、シャンデリア事件から2度目のベッドシーンや屋上シーンを経る中、終盤のステージシークエンスを即座に迎える展開には違和感も。と云うのも、あのシャンデリア事件のダメージを踏まえれば、その改修工事には少なくとも数週間は要するはずなので。この辺りは、原作とは異なるモチーフをスクリプト前半に集約させる筋立てのツケだったようにも思える所。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

脚色ならではの見せ場となる墓場の対決(原作では墓場での対決場面はない)の後、ラウルに温情をかけられた怒れる怪人が「ドン・ファン」のステージを混乱に陥れる最中に発生。原作ではジリ夫人の後任者が犠牲になるが、ここでの犠牲者はカルロッタの恋人でバリトン歌手のピアンジ。ケーブルカーのように落下するシャンデリアがオケピットに突入するシーンは劇中でも大きな見せ場の一つ。宣伝材料にもされていた大迫力のシーンには違いないが、その実これは緊迫感もイマイチ。このシャンデリアのシーンは、25年度版を筆頭に一連の映像作品でも待ったなしでの大惨事となる重要な場面だが、この04年度版では、観客に逃げる猶予を与えているような印象も。ただ、この辺りも要は、ドラマティックなエンディングや怪人のペーソスにスポットを当てる中、無暗な犠牲者キャラを輩出できない脚色だったと云う事。何れにせよ、25年度版のような出会い頭での大衝撃には程遠いものの、糸ノコを振りかざす43年度版よりは気風のイイ大迫力のシーンと云った感じ。ちなみにシャンデリアが落下する直前、スプレー細工でヒキガエル声になるカルロッタだが、このパートでの原作でのネタは怪人の腹話術。さすがに腹話術を再現する脚色は何れの作品でも描かれていないが、いっこく堂さんが怪人を演じるような脚色版で一度は見てみたい所。と云うか、ここでのバトラー版のようなパート仕様のマスクで。フルフェイスのマスクだったら誰でも同じなので。
各種作品の参照: 怪人の最期
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

ダロガと呼ばれるペルシア人(ペルシアの元警察長官)とラウルクリスティーヌの救出に乗り出す中、灼熱地獄や水責めで2人を苦しめる怪人だが、最終的には気絶するダロガを家まで送り届け、若い2人の恋愛の成就を見届ける中、衰弱した身体で大往生するような最期を遂げる。ちなみに、ダロガラウルを苦しめる監獄部屋の描写にはかなりの活字が費やされているが、クライマックスに至るまでの端的な流れは、「電気仕掛けの熱責め」→「水責め」→「クリスティーヌの真心からの哀れみに感極まった怪人が3人を解放」と云う内容。ちなみにダロガラウルの命運がクリスティーヌの手に委ねられる「水責め」に至る手前の描写は中々の緊張感。「サソリ」と「バッタ」を模る青銅製スイッチ(日本製らしい)が並べられる中、「バッタ」をひねればパリの一区を吹っ飛ばす規模の大爆発、もう一方の「サソリ」をひねれば地下の火薬は水没するものの、クリスティーヌは怪人との結婚に同意したとみなされると云う二者択一の選択肢だが、スリリングだったのは、5分間と云う猶予時間を与えて怪人がその場を去る中、その5分間を過ぎても現れない怪人を憂慮するダロガが「サソリ」と「バッタ」による結末の裏をかこうとする辺り。結果的には、クリスティーヌが「サソリ」をひねる中、一般市民を巻き込む大惨事は回避するものの、込み上げる地下水で溺死寸前にまで追い込まれるダロガラウルだが、やがて迎える結末は、クリスティーヌの優しさに感極まった怪人が3人を解放するドラマティックなエンディング。その3人を解放した怪人の心情については、衰弱した身体でダロガのもとを訪れた怪人自らが言及。ちなみに怪人はその数日後に往生するように他界するが、ダロガのもとを訪れた怪人が衰弱していた理由については言及されていない。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

レドー(原作ではダロガ)とラウルが怪人の根城に侵入」→「熱責め」→「水責め」→「サソリとバッタの二者択一の場面」→「怪人が2人を助ける」と云う流れは原作にほぼ同じ。怪人が得意とする「投げ縄」に注意しながら歩を進める描写も原作に忠実だが、やがて迎える怒涛のクライマックスは原作とは全くの別モノ。レドーラウルを助けた怪人が押し寄せる群集にビビる中、「クリスティーヌを拉致」→「馬車の事故」→「路上に放り出されたクリスティーヌを尻目に怪人が一人で逃走」→「河の畔に追い詰められた怪人が怒れる群集に撲殺された挙句に河に投げ捨てられる」という流れの脚色だが、これは公開当時の原作のファンには衝撃のクライマックスだったはず。ラウルを救出する局面では善性も覗かせるものの、基本的にはエゴイストのまま迎える脚色版ならではの怪人の末路だが、レドーラウルを助ける場面での理由付けがこの脚色版ではやや心もとない。と云うより、クリスティーヌの哀願を受け入れる展開は、原作をスレンダーに纏め上げる脚色に他ならないが、再びエゴイストに転じる直後の展開を踏まえれば、やや混乱も余儀なくされる。クリスティーヌと共に逃走する脚色の方がスリリングだった事は確かだが、善性に目覚めてレドーラウルを助ける原作の場面を再現していた事を考慮すれば、ここは最初から怪人一人で逃走させていた方が自然だったはず。怪人退治で幕を下ろすクライマックスでは、クリスティーヌはもとよりレドーラウルも結局は置き去りにもされる訳なので。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

「シャンデリアのシーン」→「警官を装う怪人がクリスティーヌを誘拐」→「怪人の位置を探るための協奏曲をあのリストが演奏する中、思惑通りに怪人が演奏を開始」→「怪人を追い詰めたラウルアナトールが地下部屋の天井に発砲」→「発砲の衝撃で地下の至る場所で壁面が崩れ落ちる中、怪人は瓦礫の下敷きに」と云う流れのクライマックスだが、これもやはり原作とは全くの別モノ。怪人を挑発するためにリストに演奏させると云うアイディアだけでもワクワクさせられる内容だが、その実、怪人と善玉キャラの対決を本筋とするスクリプトとしてはあまりに呆気ない。やがて迎えるウィット全開のエンディングも、原作や一連の映像作品とはあまりにも違うが、トータル的には実は最もシビアだったのもこの43年度版の脚色。と云うのも、実の父親という設定の怪人があまりに哀れなため。「怪人には何故か同情を覚える」「怪人の書き下ろした協奏曲にはノスタルジーを覚える」といったヒロインのダイアローグも用意されてはいるが、これも怪人の正体にヒロインが気付く事を示唆するような結末のスクリプトでなければ永久に解決されない。と云うより、ウィット全開のエンディングにも空しさだけが過ぎる。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

「怪人をおびき寄せるべく『ファウスト』を上演」→「怪人がシャンデリアを落下させようと暗躍」→「その真下の席に移動したマリアの姿に土壇場で気付く中、慌てた怪人もシャンデリアと共に落下」と云うクライマックスの流れだが、ついてはシャンデリア事件で幕を下ろす脚色もこの作品だけ。そもそもが特定キャラへの「復讐」を大きなモチーフにするこの脚色の場合、4年越しでの復讐も果たされていた中では、やがて迎える怪人の末路も決まっていたようなものだが、それにしてもこのエンディングは呆気ない。ちなみにここでは、43年度版のように糸ノコでシャンデリアの連結部を切り落とす設定だが、小ぶりなシャンデリアを切り落とす光景には43年度版のような違和感はないものの、怪人が落下して絶命すると云うのもかなり性急な印象。これも要は、予想外の展開でマリアの命を危機に晒す結果になる中、亡き妻の面影を残すマリアとの心中に方向転換したと云う事なのだろうが、あの瞬時の場面では状況を把握するのも無理な話。と云うか、個人的には直後のエンドロールの最中にそのオチについて考えさせられた。原作や他の脚色では地下アジトでの死闘も残す訳だが、まさかシャンデリア事件で幕を下ろすとは予想もしていなかった中、あのエンディングには良くも悪くもサプライズと云う感じ。ただ、原作などとは切り離して考えれば、死の運命も端から背負う元コンダクターの怪人の末路としては、ホールのど真ん中を舞台にする散り様と云うのもなかなか粋な計らいだったのかも。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

「仮面舞踏会」→「カルロッタを殺害した怪人がヒロインを拉致」→「リチャード+警官隊が怪人と対決」→「怪人がリチャードを惨殺」→「ヒロインが自害」→「19世紀のロンドンから現代のNYにワープ」→「ヒロインと怪人の決着」と云う流れ。スクリプト全体の流れでは「20世紀のNY」→「19世紀のロンドン」→「20世紀のNY」と時空間を移動する中、長丁場の19世紀のシークエンスで原作を踏襲するスクリプトだが、ついては、あのラウルに匹敵するヒロインの相手役リチャードを葬る脚色は一連の作品でも唯一。唯一といえば、怪人に拉致されたクリスティーヌが壁に額を打ち付ける描写も、一連の脚色では原作を踏襲する唯一の描写。大胆にも思えるリチャードの退場については、そもそもの話、原作や一連の脚色でも若さゆえに未熟なキャラのように描かれるラウル(ここではリチャード)の場合、何れのクライマックスでも実は役立たずのキャラ。ヒロインの救出にも貢献出来ないばかりか、足手まといのように描く脚色もあったりするが、ついてはここでの末路も実にアッサリとした感じ。ちなみに19世紀の怪人に止めを刺すホーキンス(警部)やヒロインの親友メグは、やがて迎える20世紀のヒロインの人生にも関わっているが、そのメンツの中にリチャードはいない。これも要は、怪人とヒロインの因縁をテーマにするスレンダーな脚色だったと云う事。やがてヒロインと怪人が対決の時を迎える中、「曲を葬れば怪人も死ぬ」と云う脚色ならではのルールを活かすクライマックスだが、これは協奏曲の完成とヒロインの存在が全てだった怪人ならではの極上の結末。分かり易いばかりかペーソスも満開。メジャーな原作を下敷きにする中、明快なテーマとオリジナリティにも溢れるショッキングホラーと云うのも滅多にはない。と云うより、メロウ度全開の原作を気風の良いホラーに昇華させたここでの手腕はなかなかのもの。ちなみにブラナー版の「フランケンシュタイン」やコッポラ版の「ドラキュラ」もホラーイズムとメロウなトーンが衝突したままだったので。
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

「ステージにネズミ退治屋が乱入する中、ヒロインと怪人の関係を暴露」→「会場も騒然とする中、突如現れた怪人がヒロインを拉致」→「ヒロインの救出に向かったラウルが怪人を銃撃」→「ネズミ退治屋と警官隊が押し寄せる中、怪人が2人の逃亡を手助け」→「ネズミ退治屋を返り討ちにするも、警官隊に射撃された怪人は絶命」と云うクライマックスだが、この最終盤の展開には違和感も残る。ネズミ退治屋+警官隊が怪人のアジトに押し寄せる中、「連中は君を殺すつもりだ」と云うヒロインの身をラウルに委ねる怪人だが、あの警官隊の標的は他ならぬ怪人でヒロインは蚊帳の外だったはず。怪人との濡れ場をネズミ退治屋にタレ込まれたヒロインの立場が微妙だった事は確かだが、警官隊がヒロインを殺害するという怪人の憶測もお門違い。ついては、ネズミに身体を這わせる異常さを前段で目の当たりにしていた中、怪人とは決別したはずだったヒロインが土壇場で見せる狂おしいまでの未練にも違和感が。「逃げろ!」と云う怪人の温情に心を打たれる中、肉体関係を重ねていた怪人に対する慕情が突如込み上げたと云う見方も出来るが、やはりおかしい。原作の場合、ヒロインの哀れみに感極まった怪人がヒロインとラウルを逃がす訳だが、その理由も汚れ亡き精神のヒロインを幸せにする為にはそうするしかなかったため。一方、こちらの脚色の場合、ラウルに撃たれる直前の怪人は、ヒロインの汚れ亡き精神を目の当たりにするどころか、そのヒロインにも非情の一撃を食らっていたばかりで、ヒロインに対する歪んだ愛情にも何ら変化はなかったはず。ラウルに撃たれた事で観念した怪人が止む無く2人を逃がしたと云う見方も出来るが、怪人がラウルに撃たれた部位も左の肩口。実際、直後の怪人はネズミ退治屋や警官隊を相手に大立ち回りを演じているが、要は、2人を逃がそうとした怪人の心変わりが全く理解出来ない筋立てだったと云う事。ここは、エゴイズムを貫く怪人がヒロインを再び連れ去ろうとする中、怪人が一斉射撃の盾になる形でヒロインの命を救うようなクライマックスの方が良かったはず。と云うより、怪人の容姿に纏わるレクチャー的な原作のモチーフも度外視する脚色だった事を踏まえれば、これ以外の結末も思い浮かばないのだが。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

「怪人作の『ドン・ファン』が上演される中、怪人も堂々とステージ上に登場」→「シャンデリア事件」→「怪人がクリスティーヌを拉致」→「救出に向かったラウルが水路に落下(水責め)」→「自力で脱出したラウルと怪人の対決」→「怪人を取るかラウルを取るか二者択一を迫られるクリスティーヌ」→「クリスティーヌとの接吻に感極まった怪人が2人を解放」→「押し寄せる群集を尻目に姿を消す怪人」と云う流れが1870年シークエンスのクライマックス。そもそもこの04年度版の脚色は、1919年から1870年に遡る時系列設定の下、1917年に61歳で他界したクリスティーヌの墓を怪人が訪れた事を示唆する1919年のカットで幕を下ろす回想録的な内容。ラウルが一人で救出に向かう設定や、群集+警察が押し寄せるクライマックスの描写は原作とは大きく異なるが、一連の作品の中でも原作のエッセンスを最も忠実に踏襲していたのも実はこの04年度版の脚色。時系列をリヴァースするスクリプトも、元ペルシア警察署長ダロガの証言を基に作者のルルーが事件を振り返る原作に近い。また、クリスティーヌとの接吻で感極まる怪人の描写なども、怪人自らがダロガに告げる原作の証言そのままだが、一方、この04年度版では、原作でもお預けにされていたネタが幾つか実現されている。まずは、怪人のバックボーンを物語るネタの一つとなる「投げ縄」。「投げ縄に気をつけろ」と云う忠告をキーワードにしながらも、実際には披露されずじまいの原作だが、ここではクライマックスでの重要なネタ。原作では上演される事のなかった「ドン・ファン」もここでは超目玉のネタ。
各種作品の参照: スコア
原作:LE FANTÔME DE L'OPÉRA (1910)

オペラの段落で登場する歌劇は「ファウスト」だけ。ファウストの恋の相手マルガレーテクリスティーヌが演じて大喝采を浴びるシーンと、クリスティーヌを目の敵にするカルロッタが赤恥をかかされる2箇所で登場。怪人が書き下ろす「ドン・ファン」も登場するが、実際にはプレイされず。他には、スウェーデン人のクリスティーヌが幼少時にヴァイオリニストの父親から聞かされていたと云う「ラザレの復活」と云う楽曲も登場。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

舞台シークエンスの2箇所を「ファウスト」で占める辺りは原作にも同じ。と云うより、全編をリー・アーウィンのオルガンで占めるスコアは、一連の映像作品とはコンセプトも異なるサイレントならではの内容だが、これがとにかく超絶品。と云うよりこれは、オルガニストのために制作された極上PVのような最強の内容。オルガンのスキルも然る事ながら、楽曲としてのスコアのポテンシャルがとにかく高い。個人的にはサイレントのオタクでも何でもないが、この映像だけは別格。80分弱のPV的な感覚で何度もリピートさせられた。90年代にはさまざまなアーティストの手で焼き直されたサントラだが、個人的にはこのオリジナルスコアの擬似ステレオ化+高音質マスタリングでの再現を切望するばかり。廉価版でリリースされているDVDだが、こんな極上のサウンド+幽玄な映像=最強のPV的な80分弱もの映像作品を500円程度でゲット出来るのも夢のような話。
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

舞台シークエンスで登場する歌劇は「マルタ」「グロイアの恋」「仮面の王子」、そして、故郷の子守唄をベースに怪人が書き下ろしたと云う協奏曲の4つ。秋吉敏子さんのプレイでも著名な「郷愁」を思わせる怪人の協奏曲については、あのリストをフィーチャーするフルオケ版のパフォーマンスが「仮面の王子」の直後に登場するが、そもそもオープニングとエンディングを締めるスコアもこの協奏曲をモチーフにする楽曲。ついては、シャルル・グノー版の「ファウスト」が中心となるはずのオペラのシーンも、物語の脚色に同じく全く新たな発想のようにも思えるが、故郷の民謡を下敷きにするアイディアは、原作での「ラザレの復活」の踏襲。元はヴァイオリニストのエリック(怪人)が楽団長に呼びつけられる中、その御前演奏で披露するのもこのテーマ曲のメロだが、ここで可笑しかったのは、エリックに引退を促す額団長の話。アンサンブルでのプレイに精彩を欠く中、12年目の古株と云う理由で引退を勧告されるエリックだが、場面を巻き戻して見てみれば、エリックの周りのメンツも皆年寄りばかり。と云うより、四十路のエリックを凌駕する老人ばかりだったりする。これではエリックの精神が捻じ曲がるのも当たり前だったと云う事なのかも。そんな話はさて置き、この43年度版の最大の特徴は、ダイアローグのパートこそ旋律はないものの、それぞれのステージシークエンスがミュージカル版にも匹敵するアカデミックな内容だった事。見方によれば、04年度のミュージカル版にも匹敵する芸術度。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

舞台シークエンスの2箇所を「ファウスト」で占める辺りは、原作や後の89年度版にも同じ。ヒロインとマイケルの馴れ初めでは、歌劇を引用するダイアローグも登場。また、ヒロインとマイケルがカフェで語り合う中、ヴァイオリン奏者がテーブルにしつこく付きまとう場面は結構笑える。オケ指揮者と云う怪人のバックボーンも原作などとは大きく異なる中、作曲家としての怪人スキルを象徴する「ドン・ファン」なども登場しないスクリプトだが、全編を彩るスコアはなかなかゴージャス。名匠ラルフ・バーンズのオリジナルの他、仮面舞踏会のシークエンスでは名曲のカヴァーも。
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

舞台シークエンスで登場する歌劇はシャルル・グノー版の「ファウスト」だけ。原作や他の脚色版の場合、1度目のステージでクリスティーヌの成功を描く中、クリスティーヌを蔑ろにする2度目のステージで怪人の怒りが爆発するような流れだが、ここでは1度目のステージで成功しながらも、その成功を阻む裏工作に対して激怒すると云う脚色。序盤では、怪人作の「ドン・ファン(勝ち誇るドン・ファン)」のスコアが20世紀のNYの図書館で発見される中、現代を舞台にする斬新な物語を予感させられたりもするが、その「ドン・ファン」が実際にスクリプト上でお披露目されるのは、怪人がヴァイオリンを手にする19世紀の墓場のシーン、冒頭でのオーディションの触り、怪人のシステムからMIDIヴァージョンが鳴り響くクライマックスの3箇所だけ。ステージでは演奏されない。ちなみにさまざまな場面やエンドクレジットでも流れる「ドン・ファン」はここでのテーマモチーフ。実際の作曲者は、怪人ではなくミーシャ・シーガル
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

挿入されるオペラは「シルヴィア」「ファウスト」「ロミオとジュリエット」「ラクメ」の4つ。仮面舞踏会のシークエンスも割愛する中、グノー版のオペラを中心とするスコアだが、ここは何と言ってもモリコーネのオリジナル。テーマ曲の"Sighs and Sighs"は、一連の脚色版でもベストの1曲。ただ、劇中ではやや微妙な印象。と云うのも、原作で描かれるような怪人のペーソスも度外視する路線のスクリプトだったため。怪人とヒロインのやや屈折しながらもストレートな恋愛模様を下敷きにするスクリプトでは、この限りなく情緒豊かな超名曲も明らかに浮いていたが、サントラで楽しむ分には何ら問題もない。個人的には永遠の名曲の誕生に只々感謝するばかり。"Sighs and Sighs"と云うタイトルだけでもイッてしまえる。グアリニについては、"Tour Keys"という曲名もクレジットされているが、こちらの方はサントラには未収録。パイプオルガンのサウンドも大々的にフィーチャーされる映像だが、グアリニのパフォーマンスだったのかどうかについては不明。ちなみにグアリニの名前がクレジットされるのも、80年代の映像作品では極めて稀。ここではグアリニ夫人のチンツィア・カヴァリエーリCinzia Cavalieri)もコンサルタントとしてクレジットされる。
THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

舞台シークエンスで登場する歌劇は「ハンニバル」「愚か者(イル・ムート)」「ドン・ファン」の3つ。その「ハンニバル」(ジャン=リュック・シャルモーの作曲)を除く歌劇はもとより、「仮面舞踏会」、主要キャラの地方民謡をイメージする3/4曲、ダイアローグを彩るスコアなど全てがアンドリュー・ロイド・ウェバーの作曲。基本的には86年のミュージカル版のエッセンスを映像版で再現する内容だが、楽曲そのもののポテンシャルも然る事ながら、高音質のサウンドにはトランス出来るほどの興奮を覚える事も確か。叙情的なミュージカルのシークエンスで占められる中、140分を超える長尺にもなっているが、これも純然たるミュージカル作品ならでは。周知の通り、ジェラルド・バトラー(怪人=エリック)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)など主要キャラが吹き替えなしでの歌声を披露している事も他作品との大きな違いだが、ミュージカルシークエンスではただ一人吹き替えだったミニー・ドライヴァーも、エンディングテーマ"Learn To Be Lonely"で美声を披露。ちなみにドライヴァーの吹き替えを務めたのは舞台版でカルロッタを演じていたマーガレット・プリース(Margaret Preece)。舞台シークエンスについては43年度版と比較するのも面白い1本だが、テンポ感覚も基本から異なるこの作品、スクリプトそのものを他作品と比較するのもナンセンス。
各種脚色版のクレジット (抜粋)
THE PHANTOM OF THE OPERA (1925)

Screenplay by (all uncredited) Walter Anthony (titles), Elliott J. Clawson (adaptation), Bernard McConville (treatment), Frank M. McCormack, Tom Reed (titles), Raymond L. Schrock (adaptation), Jasper Spearing (treatment), Richard Wallace (add. comedy material)
Directed by Rupert Julian, Lon Chaney (uncredited), Ernst Laemmle (uncredited), Edward Sedgwick (uncredited)
Music by Lee Erwin
cf. Gustav Hinrichs, Gabriel Thibaudeau (1990), Rick Wakeman (1990), Roy Budd (1993), Carl Davis (1996)
Cast: Lon Chaney (Erik, The Phantom), Mary Philbin (Christine Daae), Norman Kerry (Vicomte Raoul de Chagny), Arthur Edmund Carewe (Ledoux), Gibson Gowland (Simon Buquet), John St. Polis (Comte Philip de Chagny), Snitz Edwards (Florine Papillon), Mary Fabian (Carlotta <1929 re-edited version only>), Virginia Pearson (Carlotta <Carlotta's mother (1929 re-edited version>), etc
PHANTOM OF THE OPERA (1943)

Screenplay by Samuel Hoffenstein, Eric Taylor, Hans Jacoby (uncredited), John Jacoby (adaptation)
Directed by Arthur Lubin
Music by Edward Ward
Cast: Nelson Eddy (Anatole Garron), Susanna Foster (Christine Dubois), Claude Rains (Erique Claudin), Edgar Barrier (Raoul D'Aubert), Leo Carrillo (Signor Ferretti), Jane Farrar (Biancarolli), J. Edward Bromberg (Amiot), Fritz Feld (Lecours), etc
THE PHANTOM OF THE OPERA (1983) (tv)

Screenplay by Sherman Yellen
Directed by Robert Markowitz
Music by Ralph Burns
Cast: Maximilian Schell (Sándor Korvin / The Phantom of the Opera), Jane Seymour (Maria Gianelli / Elena Korvin), Michael York (Michael Hartnell), Jeremy Kemp (Baron Hunyadi), Diana Quick (Madame Bianchi), Philip Stone (Kraus), Paul Brooke (Inspector), Andras Miko (Balas), Gellért Raksányi (Lajos), etc
THE PHANTOM OF THE OPERA (1989)

Screenplay by Duke Sandefur / based on a screenplay by Gerry O'Hara
Directed by Dwight H. Little
Music by Misha Segal
Cast: Robert Englund (Erik Destler / The Phantom), Jill Schoelen (Christine Day), Alex Hyde-White (Richard Dutton), Bill Nighy (Martin Barton), Stephanie Lawrence (La Carlotta), Terence Harvey (Insp. Hawkins), Nathan Lewis (Davies), Peter Clapham (Harrison), Molly Shannon (Meg - New York),
Emma Rawson (Meg - London), etc
IL FANTASMA DELL'OPERA (1998)

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THE PHANTOM OF THE OPERA (2004)

Screenplay by Andrew Lloyd Webber, Joel Schumacher
Directed by Joel Schumacher
Music by Andrew Lloyd Webber
Cast: Gerard Butler (The Phantom), Emmy Rossum (Christine), Patrick Wilson (Raoul), Miranda Richardson (Madame Giry), Minnie Driver (Carlotta), Ciarán Hinds (Firmin), Simon Callow (Andre), etc
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